今、求められる社会人基礎力

 

「人間浴」で人間を育てる

京都市では“一人一人の子供を徹底的に大切にする”理念のもと、熱意あふれる教員と、保護者、地域や企業、大学などの参画により、市民ぐるみの教育改革が進展している。小・中学生に社会を体験してもらうスチューデントシティを始めとする取り組みや、中学生が企業等に実習に赴く「生き方探究・チャレンジ体験」など、数々の先進的な試みと成果で注目を浴びている、門川大作氏にお話を伺った。

 

学校での学びを生きて働く知恵に

いじめや凶悪化する少年犯罪、学力や不登校など、今、学校のあり方、教育のあり方が問われている。逆風とも呼べる社会の風潮のなか、門川氏は“公教育”の再生を目指し、家庭、地域と共に果敢な挑戦を続けている。

「学校は、勉強を教えることはもちろんですが、それ以上に子供たちが社会に出て自立していくための準備の場所として、大きな役割を担っています。しかし、今の日本の教育は学校での学びと家庭、地域での生活が乖離しており、生きて働く知恵が育っていません。いい学校に行き大きな会社に入れば幸せになれるという神話がまだまだ残っています。もちろん勉強に励んで、進学することは素晴らしいことです。しかし、社会生活を送るうえで本当に大切なのは、思いやり、相手の話を理解する力、自分で考え判断する力、相手に意志を伝える力、そして忍耐力などです。どれだけの知識を習得したかではなく、何を体験したか、どう感じ、行動したかが、重要です」

 

挫折や失敗の経験が、社会を生き抜く糧となる

京都市では多くの企業や地域団体と協力関係を築き、子供たちが少しでも多くの人や仕事に触れられるよう、さまざまなプログラムを導入している。
 「中学生の授業の一貫として、福祉施設や企業等で5日間の体験学習を行う『生き方探究・チャレンジ体験』を実施しています。今の家庭では子供に苦労させず、お客さん扱いしているところが多い。勉強はさせるけど“お手伝い”はさせない。それでは社会に出て、人の役に立つ人間は育ちません。生活の中での一つ一つの体験から学ぶことが非常に大きい。そこで、少しでも多くの経験を積んでもらうために、地域や企業の方々に協力を仰ぎ、このプログラムが実現できました。働くことの厳しさ、楽しさを実感し、新たな自分を発見する。実習を体験した子供達の心には、大きな変化が現れています。問題行動を重ねていた少年が活動を通して自分を見つめ直し、将来に希望を持つようになった。ひきこもっていた少女が老人福祉施設での実習を通じて自分が他人の役に立つことを知り、生き生きとした表情を取り戻した。そんな感動的な話をたくさん聞きます。子供のころからいろいろな人と触れ合うことは、実に大きな意味を持っているのです」
 多くの人と触れ合うこと。門川氏はこれを“人間浴”と呼んでいる。人と触れ合うことで、喜びだけでなく挫折や失敗を経験する。それが社会を生きぬくうえでの知恵となり糧となるからだ。それは大人の世界でも同じであると門川氏は話す。

 

迷った時は、困難な道を選ぶ

「決して大学生になってからでも遅くはありません。幸いなことに、人間はほかの動物と違い、復元する力を持っています。今まであまり人と接することがなくても、それは大した問題ではありません。それよりもこれからどれだけの人と触れ合うか、何を経験するかが重要です。“今さら”とは思わず、“今から”と思ってどんどんチャレンジしてほしい。今を大事にすれば必ず未来は開けます」

そして最後にこう付け加えてくれた。

「迷った時は困難な道を選んでほしい。人間はともすると楽な方を選びがちですが、しんどい思いを経験して残った結果は、成功しても失敗しても、きっと自分の生涯の財産になりますから」

 

プロフィール
門川 大作
  • 京都市長
  • 門川 大作

1950年生まれ。高校卒業後、1969年に京都市教育委員会に採用。その後、立命館大学夜学に学び、総務部長、教育次長を経て、2001年に高卒就職で初めての教育長に就任。文科省の審議会などの委員を歴任。現在中央教育審議会の3つの部会、内閣の教育再生会議委員。昨年衆議院「教育基本法特別委員会」、今年には同「教育再生特別委員会」に参考人として招聘され、京都での実践を踏まえて意見陳述を行う。

社会人基礎力とは?

社会人基礎力とは「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」といった、私たちが職場や地域社会で働く上で必要な力のことをいいます。IT化やサービス経済化等が進む中、こうした力はますます重視されてきています。

「スチューデントシティ」

小・中学校段階から子どもたちに勤労観、職業観を育んでもらうことを目的とした京都ならではの事業。閉校になった校舎の中に再現した「街」の中で、子どもたちが消費者役と企業に勤める社員役など、それぞれの立場での役割を体験し、社会や経済の仕組み、社会と自分の関わりなどを理解する。40企業の参画、約1,000人の企業と保護者ボランティアの協力の下に実施され、地域の教育力の活性化にも繋がっている。
http://www.edu.city.kyoto.jp/scfp/

 

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